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広がるフィンテック=ビジネス変革の最前線

2017/01/05 株式会社 時事通信社
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金融とITを融合した「フィンテック」を活用したビジネスが日本国内で一段と広がってきた。インターネット上の小口の資金調達、仮想通貨を利用した公共料金の支払い、健康データを反映した保険などが次々に登場。久々の起業ブームを引っ張る原動力の一つにもなっている。フィンテックが変えるビジネスの最前線を追った。 ◇「共感の輪」で事業支援=小口出資、ネットで調達  「クラウドファンディングのおかげで事業開始の土俵に立てた」。栃木県高根沢町で飲食店「こずち」を家族で営む今城恵美さんは2016年秋、小麦粉や米粉などの県産品を使った英国菓子スコーンの製造・販売を始めた。事業化に必要な100万円は、インターネットで不特定多数から小口の資金を募るクラウドファンディングを使い調達した。  その1年前から夕食メニューとしてスコーンの提供を開始。本格的な菓子販売には専用設備が必要だが、取引先の銀行からは「本業をしっかりやるように」と言われており、新たな融資の相談を切り出せなかった。その折、テレビ番組でクラウドファンディングの存在を知り、運営会社大手レディフォー(東京)にたどり着く。約1カ月を実現性の審査やウェブページ作成を経て、16年5月に資金の募集を始めた。  ウェブでは地元で40年以上店を続けていることやスコーンに対する思いをつづり、店舗改築などの資金が必要だと訴えた。2カ月後、地元のほか、遠くは高知市に住む人からも資金提供の申し出があり、計15人から目標の100万円を超えるお金が集まった。新規事業は徐々に軌道に乗り始めており、単発のイベントでは1日で1個130~200円のスコーンが800個売れたこともある。今城さんは「ネット通販で全国配送したい」と事業拡大を視野に入れる。  レディフォーには全国各地からこうした相談が寄せられている。「こずち」はスコーンや地元野菜を送るなど、資金提供者はちょっとした返礼品を受け取ることができるが、金銭的な見返りはない。事業を成立させるのは応援したいという「共感の輪」だ。レディフォーは調達金額が目標に達した場合のみ17%の手数料を得るが、目標に到達しなかった場合は不成立とする。  担保や保証を重視する既存金融機関には手が出しにくい案件も多いが、融資の前段階で事業の将来性や経営者の資質を見極める要素として地域金融機関もクラウドファンディングに注目。既に北陸銀行(富山市)や福島信用金庫(福島市)など計19地域金融機関がレディフォーとの提携を発表した。同社の米良はるか社長は「地域金融機関の融資への橋渡し役になり得る」と手応えを語っている。 ◇公共料金にビットコイン=自由化で顧客獲得競争  インターネット上の仮想通貨「ビットコイン」で公共料金を支払えるサービスが相次いで登場している。4月には電力に続き都市ガスでも家庭向け販売が全面自由化。新規参入企業は、安さだけでなく、金融とITを融合した「フィンテック」も武器に顧客獲得を急ぐ。  ビットコインでの支払いが公共料金にまで広がってきた背景には、仮想通貨の利用者保護の法制度が整ってきたことも大きい。  仮想通貨の取引所「コインチェック」を運営するレジュプレス(東京)はLPガス販売の三ツ輪産業(同)と提携。電力小売りに参入した三ツ輪子会社は2016年11月、ビットコインでの支払いと、同社と契約を結ぶ前の電気代の4~6%相当分をビットコインで還元するプランのどちらかを選べる制度を導入した。  利用するにはコインチェックに専用口座を開設する必要がある。レジュプレスの大塚雄介最高執行責任者は「まずはビットコインを持ってもらうことが大切だ」として、公共料金支払いをきっかけとした利用者層の拡大に期待する。  自由化を控えたガス業界では、LPガス大手の日本瓦斯が16年10月にビットコイン決済を導入。スマートフォンの利用料金では、格安スマホ「ロケットモバイル」を運営するエコノミカル(東京)が17年2月からビットコイン払いを受け付ける。  仮想通貨以外でも、フィンテック活用が進む。日本瓦斯は、無料通信アプリ「LINE」でのガス器具販売を開始。さらにスマホでクレジットカード支払いを登録できるようにした。技術を提供したベンチャー企業メタップスの荻原充彦執行役員は「会社の経営分析や顧客の購買行動予測に決済データを利用することもできる」と述べ、フィンテック活用の利点を強調している。 ◇健康データ、保険料に反映=ウエアラブル端末で収集  腕に装着した時計型端末がその日の運動量や睡眠時間、心拍数などを記録する。スマートフォンと連動し、日々の健康状態をチェックして、病気になる可能性を予測。それに応じた医療保険料までも自動的に算出する。そんな近未来の世界が近づいている。  生命保険会社は、健康な人ほど保険料を割り引く商品の開発を進めており、健康診断結果に基づいて保険料を算出するタイプの保険商品を既に扱っている。ただ、個人が病気になる可能性をより精緻に調べるには、運動や睡眠、食事など生活習慣のデータが必要。個人の健康に関する膨大なデータをどのように収集するのかが課題だ。  損保ジャパン日本興亜ひまわり生命保険(東京)は2016年11月、一部保険契約者に活動量などを計測できるウエアラブル端末「フィットビット」の配布を始め、データ収集に乗り出した。健康診断の結果も踏まえ、データと病気の因果関係を分析し、今後の商品開発に生かしたい考えだ。  存在感を高めているのは、データの収集・解析で強みを持つITベンチャーだ。健康増進を支援するFiNC(フィンク、東京)は、携帯端末アプリで集めたデータを人工知能で分析し、最適な生活習慣を提案するサービスを展開している。  現在は従業員の健康増進を目的にした法人向けサービスが主力だが、17年中に個人向けに無料アプリを投入する計画だ。複数の生保と商品開発を視野に協業しており、乗松文夫副社長は「社会のインフラとして活用してもらいたい」と話す。  個人の健康データなど取り扱いに慎重を要する情報の利用可能性は広がりつつある。欧州連合(EU)は18年5月から域内で収集される個人データの保護に関する規制を強化する予定だ。日本でも今後、データの管理や活用をめぐるルール整備が課題となる。 ◇成功の鍵は継続力=起業家の質は向上-米VC創設者大沢氏  米国の独立系ベンチャーキャピタル(VC)、グローバル・カタリスト・パートナーズの共同創設者である大沢弘治氏はインタビューに応じ、起業を成功させるためには「粛々とやり抜く継続性がチャレンジとなる」との考えを強調した。三菱商事出身の大沢氏は、シリコンバレーを拠点に多くの起業家にリスクマネーを供給している。  日本のベンチャー業界は現在、楽天やディー・エヌ・エー(DeNA)などの創業期に当たる1990年代以来の起業ブームに沸く。金融とITを掛け合わせた「フィンテック」や人工知能(AI)、ロボットなどがけん引している格好だ。民間の調査会社などによると、2016年の国内向けのベンチャー投資額は700億~800億円と、3年連続で前年比プラスを維持するとみられている。  大沢氏は「新しいイノベーティブ(革新的)な取り組みを実際に検証できる環境が整えば、これまでと異なる動きの触媒になるかもしれない」と指摘。フィンテック関連の革新的なサービスの提供を実験的に認める英国の制度「サンドボックス」を例に挙げ、政府がこうした取り組みを検討することに期待を示した。  日本の起業ブームは、1970年代以降ほぼ10年単位で起きており、最近は第4期を迎えたとされる。大沢氏は、「社会的なインパクトを与えようと使命感に燃える起業家の質は確実に向上している」と評価。ただ、「(開発するITサービスが)実際に社会に受け入れられるまでには、起業後5~6年くらいかかる」と述べ、粘り強く事業を続けるよう訴えた。  2020年の東京五輪後、人口減少の波が首都圏に及ぶとの見方もある。大沢氏は、過去の起業ブームが景気の浮き沈みなどに大きく左右されたと分析。「五輪後も耐え得るビジネスモデルなどをどう担保し、やり遂げていくのか。起業家とリスクマネー供給者の双方が問われている」と語った。(2017/01/02-15:25)

〔写真説明〕クラウドファンディングで調達した資金で、英国菓子スコーンの販売事業を始めた飲食店「こずち」の今城恵美さん=2016年12月21日、栃木県高根沢町

〔写真説明〕インタビューに応じるクラウドファンディングサイト運営大手レディフォー(東京)の米良はるか社長=2016年12月12日、東京都文京区の同社本社

〔写真説明〕インタビューに答える米シリコンバレー投資会社「グローバル・カタリスト・パートナーズ」の大沢弘治共同創設者=2016年12月15日、東京都港区の日本法人本社

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