AI、デジタルツイン、ヤングケアラー――INID2026決勝大会で学生たちが描いた6つの保険の未来
GuardTechコミュニティの温水です。2026年5月30日、当コミュニティが支援する大学生向け保険アイデアコンペティション「INID2026」の決勝大会が、慶應義塾大学三田キャンパスで開催されました。
GuardTech検討コミュニティで読む →目次
- はじめに
- 「確率のない未来」を保険にする
- 「∞―AIシミュレーションにより、確率のない未来を計算可能なリスクへ―」
- 「圧倒的なリアリティ」と評された保険
- 海上輸送における遅延損害を補償する新保険 ―Supply Chain Stability Insurance(SCSI)―
- 「復旧の一歩を、テクノロジーで速くする」
- QuakeScope|3Dセンシング×AIで地震保険査定を変革する次世代自動損害査定システム
- クレジットカードが保険証券になる日
- クレジットカード組み込み型個人版保証保険Credisure
- 「守る人」を守る保険
- 「守る人」が守られていない社会を変える、新しい保険のかたち「守る人、壊れます保険」
- メンタル不調を予防する保険は実現できるか
- REST:メンタルデジタルツインが実現するPay As You Live型次世代予防保険モデル
- おわりに
GuardTechコミュニティの温水です。
2026年5月30日、当コミュニティが支援する大学生向け保険アイデアコンペティション「INID2026」の決勝大会が、慶應義塾大学三田キャンパスで開催されました。
第2回となる今回は、AIによるリスク予測、メンタルデジタルツイン、地震保険査定の自動化、ヤングケアラー支援など、実に多彩なアイデアが集まりました。
本記事では、ファイナリスト6チームの発表作品の紹介を中心に、審査員との質疑応答など会場での議論も交えながら、決勝大会の模様をレポートします。
はじめに
「保険のアイデアコンテスト」と聞くと、どのような提案を思い浮かべるだろうか。
新しい医療保険。
新しい自動車保険。
あるいは自然災害への備え。
もちろんそうした発想も保険にとって重要である。
しかし、今年のINID(Insurance Ideathon)2026決勝大会で学生たちが描いた未来は、それだけではなかった。
メンタルヘルスのデジタルツインを構築し、休職前に介入する保険。
スマートフォンの撮影だけで地震保険の査定を行う仕組み。
ヤングケアラーや家族介護者を支援する保険。
さらには海上輸送の遅延リスクや前払いサービス事業者の倒産リスクを補償する新たなスキームまで登場した。
ファイナリスト6チームの発表作品と審査・表彰結果は次の通り。
表彰結果

決勝大会までの道のり

続いてファイナリスト6チームの発表作品について紹介する(順不同)。
「確率のない未来」を保険にする
「∞―AIシミュレーションにより、確率のない未来を計算可能なリスクへ―」
松山大学 ×東京経済大学
チームメンバー:増田 結さん・石森 七海さん・昆野 由香里さん・猿渡 大和さん

今回の決勝大会で、最も大胆な発想だったのがこの作品だった。
保険は確率の産業である。
発生確率が分からなければ保険料は算出できない。
つまり、
「データがないから保険が作れない」
というのが保険業界の常識だ。
このチームは、その常識そのものに挑戦した。
提案されたのは、AIシミュレーションによって仮想母集団を生成し、確率そのものを創り出すという仕組みである。
発表では、美容系インフルエンサーをモデルケースとして取り上げた。
SNSアカウントが停止された場合、収入や事業にどれほどの影響が出るのか。
従来であれば十分な統計データが存在せず、保険化は難しい。
しかし∞では、LLMを活用して仮想社会を構築し、多数の未来シナリオを生成することで損失発生確率や損失額を推計する。
さらに興味深かったのは、異なるリスクを一つのポートフォリオに束ねるという考え方だ。
通常の保険は似たリスクを集める。
しかし∞は、
「異なるリスクだからこそ相互扶助できる」
という発想を提示した。
審査員からは当然ながら厳しい質問も飛んだ。
「AIシミュレーションが間違っていたらどうするのか」
これに対してチームは、ベイズ推定の考え方を用いながら、事前確率・中間確率・事後確率を継続的に更新し、精度を高めていく構想を説明した。
実現への道のりは決して平坦ではない。
しかし、
「データがないから保険がない」
ではなく、
「データがないなら作ればいい」
という発想には大きなインパクトがあった。
結果として本作品はhokanグループ賞を受賞した。

「圧倒的なリアリティ」と評された保険
海上輸送における遅延損害を補償する新保険 ―Supply Chain Stability Insurance(SCSI)―
早稲田大学
チームメンバー:小澤 祐介さん・青木 智彦さん・細野 百花さん・陳 昕 さん

決勝大会終了後、審査員講評で最も印象に残った言葉の一つが、
「圧倒的なリアリティ」
だった。
それがこのSCSIに対する評価である。
近年、海上輸送の遅延は企業にとって深刻な経営課題となっている。
紅海情勢
気候変動
港湾混雑
物流網の混乱は珍しい出来事ではなくなった。
ところが既存保険の多くは物的損害を中心としており、輸送遅延による経済損失を十分に補償できていない。
そこで提案されたのがSCSIだ。
AIS(船舶自動識別装置)データを活用し、一定期間以上の遅延が発生した場合、自動的に保険金を支払うパラメトリック型保険である。
興味深かったのは補償設計だった。
単純な一括払いではなく、
初期支払い
継続支払い
という二段階構造を採用していた。
これにより、企業はまず緊急資金を確保し、その後も遅延長期化に応じた支援を受けられる。
さらに発表では、
逆選択への対応
集積リスク管理
再保険の活用
まで具体的に検討されていた。
アイデアの面白さだけではなく、実際の事業化まで視野に入っていた点が高く評価された本提案は、見事優秀賞を受賞した。
保険設計だけでなく再保険や集積リスク管理まで踏み込んでおり、実現可能性の高さが際立っていた。

「復旧の一歩を、テクノロジーで速くする」
QuakeScope|3Dセンシング×AIで地震保険査定を変革する次世代自動損害査定システム
慶應義塾大学大学院
チームメンバー:岩本 琉聖さん・池田 和真 さん・永井 祥太 さん・吉田 涼 さん

地震保険の課題としてしばしば指摘されるのが査定の遅さである。
大規模災害が発生した場合、被災地には多数の査定員が必要となるが、人員には限りがある。
結果として保険金支払いまで数週間から数か月を要することも珍しくない。
復旧の一歩を、テクノロジーで速くする。
QuakeScopeは、この課題をテクノロジーによって解決しようとする提案だった。
被災者がスマートフォンで建物を撮影する
3Dセンシング技術によって建物の立体モデルを生成する。
AIが損壊箇所や損壊割合を分析する。
そして等級判定から保険金見積もりまでを自動で行う。
発表では2024年能登半島地震をモデルケースとして試算が行われ、査定コストを約40%削減できる可能性が示された。
質疑応答では、
「本当に対象建物を撮影したことをどう確認するのか」
という実務的な質問も出た。
これに対してチームは、衛星画像やストリートビューとの照合などを活用する方向性を説明していた。
個人的に興味深かったのは、この仕組みがさらに進化すれば、平時から建物のデジタルツインを保有する世界も考えられることだ。
そうなれば災害発生後に写真撮影する必要はなくなるだけでなく、例えば工場設備の防災コンサルティングなど保険引受/支払査定に留まらない保険周辺サービスへの展開も開けてくるだろう。
本作品はGuardTechコミュニティより提供されたホケンノカタチ賞を受賞した。
保険商品そのものではなく、保険金支払いプロセスを変革する発想と、将来的なテクノロジーの発展の恩恵を受けて広がるであろう可能性を高く評価されたのである。

クレジットカードが保険証券になる日
クレジットカード組み込み型個人版保証保険Credisure
早稲田大学
チームメンバー:羽山 渚生さん・岸澤 穂波 さん・小池 彩葉 さん

近年、前払サービス事業者の破綻による消費者被害が相次いでいる。
英会話教室、エステ、オンラインサービスなど、サービスを受ける前に料金を支払うビジネスモデルは広く普及している。
しかし事業者が倒産した場合、消費者が支払った代金は戻ってこないケースも多い。
クレジットカードが保険証券になる日。
Credisureは、この課題に対する解決策として提案された。
特徴はクレジットカードへの保険機能の組み込みである。
利用者は特別な手続きをすることなく補償を受けられる。
また、保険会社とカード会社が共同で設立する信用情報分析プラットフォーム「Ris-core」も大きな特徴だった。
事業者の経営情報や信用情報を集約し、倒産リスクをスコアリングする。
その結果を保険料算出や引受判断に活用するという構想である。
質疑応答では、
など、多くの質問が寄せられた。
奨励賞を獲得した本作品の核心は「Ris-core」である。
保険会社だけでなく、カード会社や信用情報機関を巻き込んだエコシステム構想の中核である「Ris-core」からは、現時点日本では認められていないMGA(Managing General Agent)の有力なユースケースになり得る可能性も感じられた。

「守る人」を守る保険
「守る人」が守られていない社会を変える、新しい保険のかたち「守る人、壊れます保険」
東京経済大学
チームメンバー:白土 幸樹さん・須本 あんりさん・坂本 優衣 さん

今回の決勝大会で最も社会課題色が強かった作品かもしれない。
ヤングケアラー
ビジネスケアラー
家族介護者
といった「ケアする側」の人々である。
介護やケアの問題は、これまで主に被介護者側から語られてきた。
しかし現実には、介護する側が心身ともに疲弊し、離職や学業断念に追い込まれるケースも少なくない。
チームは二つの保険を提案した。
一つ目は「介護者バーンアウト保険」。
スマートウォッチやアプリによって睡眠やストレスをモニタリングし、危険信号が出た段階で保険が発動する。
特徴的なのは給付内容である。
現金ではなく、
休息
カウンセリング
介護支援サービス
を提供する。
二つ目は「ミライ・パスポート保険」。
ヤングケアラーなどが失った学習機会や体験機会を取り戻すための支援を行う。
こちらも単なる金銭補償ではない、「将来の選択肢」を補償するという発想が新鮮だった。
発表では、
企業福利厚生モデル
自治体との公民連携
少額短期保険からのスタート
なども提案された。
奨励賞を受賞した本作品は、保険の役割を「お金を払うこと」から「関係性を守ること」へ広げた挑戦だった。

メンタル不調を予防する保険は実現できるか
REST:メンタルデジタルツインが実現するPay As You Live型次世代予防保険モデル
慶應義塾大学大学院
チームメンバー:保坂 真吾さん・佐藤 聞世 さん・赤城 希美 さん

最優秀賞を受賞した作品である。
そして今回の決勝大会において、最も完成度の高い提案だった。
RESTが挑んだ課題は、精神疾患による休職やプレゼンティーイズムによる経済損失である。
チームはウェアラブル端末から取得した生体データを活用し、従業員ごとのメンタルデジタルツインを構築する構想を提案した。
単なる健康管理アプリではない。
Wellness(健常)
Presenteeism(移行期)
Onset(発症期)
Absenteeism(休職)
という状態遷移モデルを構築し、将来のリスクを予測する。
さらに、
生体データを起点とした個人への介入
業務環境の改善を含む組織への介入
という二軸アプローチも特徴的だった。
また、
従業員へのリワード
企業への保険料割引
を組み合わせたPay As You Liveモデルも提案された。
質疑応答では、
「従業員はウェアラブルを装着することに抵抗感があるのではないか」
という質問が出た。
これに対してチームは、
匿名化
連合学習
組織単位でのデータ活用
などを組み合わせることでプライバシー保護を図る考えを示した。
表彰後の講評で最も印象的だったのは、
「しっかりした森はできている。これからは一本一本の木を育ててほしい」
という言葉だった。
構想は十分にできている。あとは実証とエビデンスを積み重ねる段階に入ったという意味だろう。
保険、ヘルスケア、人的資本経営を統合した完成度の高さが光った。
8月にシンガポールで開催されるGAIP世界大会への派遣も決定しており、今後のブラッシュアップにも期待が集まる。

おわりに
今年のINID決勝大会では、保険学の王道とも言える商品開発型の提案から、AIやデジタルツインを活用した未来志向の提案まで、多彩なアイデアが披露された。
共通していたのは、「保険を通じて社会課題を解決したい」という強い思いである。
参加した学生たちの多くは、将来必ずしも保険業界へ進むとは限らないだろう。
しかし今回の経験を通じて得た問題意識や挑戦の精神は、どの分野に進んだとしても生き続けるはずだ。
そして保険業界にとっても、こうした若い世代の発想に触れることは大きな刺激になる。
学生たちが描いたのは単なる新しい保険商品ではなかった。AI、データ、センシング技術を活用しながら、社会課題に向き合い、新しいリスクへの備えを考える姿勢そのものだったように思う。来年はどのようなアイデアが生まれるのか。今から楽しみでならない。

INID実行委員会事務局(株式会社CIEN)の速報レポートも併せてお読みください。
INID(Insurance Ideathon)の詳細については公式ウェブサイトをご覧ください。
INID(Insurance Ideathon)|日本の大学生のための世界大会進出をかけた保険アイデアコンペティション| INID(インアイディー)は、日本の産学連携により組成された「INID実行委員会」が主催、金融庁が後援しています。優勝チー inid.cien.group本記事は転載元の公式発表をもとに INSURANCE JOURNAL が掲載しています。掲載内容は公開時点の情報に基づきます。
関連記事
2026年7月17日 生命保険業界初※のマルチAIエージェントを組み込んだ新契約査定システム「New Business 2.0」が“Insurance Asia Awards 2026”で“AI Initiative of the Year”を受賞
【小学生対象】JARVIS Tokyo夏休み子ども獣医師体験 開催のお知らせ
〜SBI生命10周年記念企画第2弾〜 公式キャラクター「スビィくん」のLINEスタンプを期間限定で無料配信 ※ご好評につき、無料スタンプは予定数に達したため終了いたしました