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老後資金は、 なぜ足りなくなるのか  ー退職金の減少と長寿化が変えた、老後準備の前提

老後資金は、 なぜ足りなくなるのか ー退職金の減少と長寿化が変えた、老後準備の前提

老後資金の不安は、単に「貯蓄が少ないから」生まれるものではありません。退職金の減少、長寿化、医療・介護費の増加など、老後生活を支えてきた前提そのものが変わっています。公的年金は老後生活の基盤ですが、すべての支出をまかなうものではありません。

目次
  1. 老後資金不足を生む、2つの大きな変化
  2. 退職金は「老後資金の柱」ではなくなりつつある
  3. 長寿化は、必要な老後資金を押し上げる
  4. 月3万8,000円の不足は、30年で1,000万円を超える
  5. 老後資金は「自助努力」だけで語れるのか
  6. 相談時に確認したい、老後資金の5つの前提
  7. 商品の前に、老後の不足構造を共有する
  8. 参考資料

老後資金の不安は、単に「貯蓄が少ないから」生まれるものではありません。退職金の減少、長寿化、医療・介護費の増加など、老後生活を支えてきた前提そのものが変わっています。

公的年金は老後生活の基盤ですが、すべての支出をまかなうものではありません。長く生きるほど生活費は積み上がり、住宅修繕、医療、介護、家族への援助など、年金額だけでは見えにくい支出も増えていきます。

老後資金の問題は、「いくら貯めれば安心か」という単純な計算ではありません。何年生きるのか、どのような暮らしを望むのかによって、必要額は大きく変わります。

本記事では、老後資金不足が生まれる背景を整理しながら、相談実務でどのように伝えるべきかを考えます。

老後資金不足を生む、2つの大きな変化

老後資金の不足が意識されるようになった背景には、大きく二つの変化があります。一つは退職金の減少、もう一つは長寿化です。

退職金の減少

約3,200万円 → 2,037万円

大卒・勤続35年以上の退職給付額は、1997年から2022年にかけて大きく減少しています。老後生活を補ってきた原資が、以前ほど期待できなくなっています。

長寿化

老後が20年、30年続く時代へ

平均寿命は大きく伸び、退職後の生活期間も長くなりました。毎月の不足額が小さく見えても、長期間積み重なれば大きな金額になります。

退職金は「老後資金の柱」ではなくなりつつある

かつては、退職金を受け取り、公的年金で生活しながら、不足分を退職金や預貯金で補うという老後設計が一般的でした。

しかし、厚生労働省の「就労条件総合調査」をもとに金融庁が作成した資料では、大卒・勤続35年以上の退職給付額は、1997年の約3,200万円から、2022年には2,037万円まで減少しています。

退職金の減少が意味すること
  • 公的年金の不足分を補う原資が小さくなる
  • 住宅ローンが残っている場合、老後資金に回せる額が減る
  • 企業によっては退職金制度そのものがない
  • 働き方の多様化により、長期勤続を前提とした退職金を受け取らない人も増えている

65歳以上の夫婦のみの無職世帯では、平均貯蓄額が2,500万円前後という統計もあります。ただし、その水準をそのまま現在の現役世代に当てはめることはできません。退職金の減少や雇用形態の変化により、同じだけの資産を準備できるとは限らないためです。

長寿化は、必要な老後資金を押し上げる

日本人の平均寿命は、戦後から大きく伸びています。1948年には男性55.6歳、女性59.4歳でしたが、2023年には男性81.09歳、女性87.14歳となりました。

65歳で退職した場合、20年以上の老後生活は珍しくありません。夫婦のどちらかが90代まで生きる可能性も考えれば、老後資金は一時点の残高ではなく、「どれだけ長く使い続けるか」という視点で考える必要があります。

月3万8,000円の不足は、30年で1,000万円を超える

2023年の家計調査では、65歳以上の夫婦のみの無職世帯について、毎月の収支不足は約3万8,000円とされています。

月単位で見ると、それほど大きな金額には感じないかもしれません。しかし、不足が長期間続くと、必要な補填額は大きくなります。

月3万8,000円 × 12カ月 = 年間約45万6,000円
年間約45万6,000円 × 30年 = 約1,368万円

これは、あくまで日常的な生活費の不足分を単純計算した金額です。住宅のリフォーム、医療費、介護費、子どもや孫への援助、旅行や趣味などは含まれていません。

「老後2,000万円」の数字だけを使わない必要額は、住居費、年金額、生活水準、健康状態、家族構成によって大きく異なります。特定の金額を示して不安を煽るのではなく、その人の家計条件に置き換えて考えることが重要です。

老後資金は「自助努力」だけで語れるのか

老後資金を準備するには、預貯金、退職金、公的年金、企業年金、NISAやiDeCoなどの資産形成制度、民間保険など、複数の手段があります。

ただし、「老後は自分で何とかする時代」とだけ伝えると、相談者に過度な不安を与えかねません。重要なのは、公的保障でどこまでカバーできるかを確認したうえで、不足する部分をどの方法で補うかを整理することです。

資産形成だけでなく、働く期間を延ばす、住居費を見直す、保険を整理する、生活水準を調整するといった選択肢もあります。老後準備は金融商品の購入だけで完結するものではありません。

相談時に確認したい、老後資金の5つの前提

老後資金を試算するときは、平均値ではなく、相談者自身の条件を具体化する必要があります。

  • 何歳まで働く予定か
  • 退職金や企業年金をどの程度見込めるか
  • 公的年金の受給見込額はいくらか
  • 老後も住宅ローンや家賃の負担が残るか
  • 医療・介護や住宅修繕の予備費をどの程度確保するか

さらに、配偶者の年齢差や年金額、資産の取り崩し順序、相続まで含めると、必要な準備は世帯ごとに変わります。数字を示すだけでなく、複数のシナリオを比較することが大切です。

商品の前に、老後の不足構造を共有する

老後資金の話題は、投資商品や個人年金保険を提案するきっかけになりやすいテーマです。しかし、商品説明から始めると、「不安を利用して販売している」と受け取られる可能性があります。

まずは、退職金がどの程度見込めるのか、公的年金で生活費の何割をまかなえるのか、不足が何年続く可能性があるのかを整理する。そのうえで、預貯金、資産運用、保険の役割を分けて考える方が、相談者にとって納得しやすい提案になります。

老後資金相談で必要なのは、ひとつの正解を示すことではありません。

退職金が減り、老後が長くなる時代では、過去の平均的なモデルをそのまま当てはめることが難しくなっています。だからこそ、相談者の年金、資産、住居、働き方を一つずつ確認し、現実的な不足額を見える形にすることが重要です。

老後資金は、準備を早く始めるほど選択肢が増えます。ただし、必要以上に不安を煽る必要はありません。公的保障を土台にしながら、無理のない積立、働き方、支出の見直しを組み合わせる。そうした現実的な設計を支えることが、これからの相談実務に求められます。

参考資料

  1. 厚生労働省「就労条件総合調査」
  2. 金融庁作成資料(退職給付額の推移)
  3. 総務省「家計調査報告」2023年
  4. 厚生労働省「令和5年簡易生命表」

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。老後に必要となる資金、公的年金の受給額、税制、資産運用の成果などは、個人の状況や制度改正、市場環境によって異なります。具体的な検討に際しては、最新の公的資料や専門家の助言をご確認ください。

本記事は転載元の公式発表をもとに INSURANCE JOURNAL が掲載しています。掲載内容は公開時点の情報に基づきます。

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