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〔フィンテック最前線〕新技術で高コスト改善=ウェルスナビ柴山氏

2017/03/02 株式会社 時事通信社
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アルゴリズムが自動的に最適な資産構成を提案する「ロボアドバイザー」サービスを手掛けるウェルスナビ(東京)の柴山和久最高経営責任者はインタビューに応じ、「テクノロジーの力を活用して金融機関の高コスト構造を抜本的に変えることができる」と強調した。  金融庁は、金融機関が高い販売手数料を目当てに顧客にリスクの高い投資商品を勧めていることを問題視している。この点について柴山氏は「構造的な問題」と指摘し、コストの引き下げでより良心的な商品が販売されるようになるとの見通しを示した。  主なやりとりは次の通り(インタビューは1月25日実施)。  -創業の理念・経緯は。  目指しているのは、次世代の金融インフラをつくりたいということだ。誰でも気軽に安心して高品質な金融サービス、特に資産運用サービスを使えるような社会を実現したい。なぜそういうことを始めたかというと、縦糸と横糸がある。もともと財務省に10年近く勤務して、その後、国際結婚した。米コンサルティング大手マッキンゼーに移って、ニューヨークで金融機関向けに資産運用系のコンサルをしていた。10兆円の運用資産を持つ機関投資家がどうリスク管理やガバナンス態勢を築くかや、どういうポートフォリオ(資産構成)をつくったらリターンを増やせるかを金融工学の専門家と一緒につくっていた。そのための数式は運用資産が10兆円でも10億円でも500円でも全く変わらない。誰でもそういうサービスを使えれば良いと思った。起業した15年4月当時は、日本で売れ筋トップ5はどこに行っても毎月分配型ハイイールド商品で、それを見てがくぜんとした。ものすごくリスクの高い商品を個人投資家が大量に買っていた。そこに、もう少しポートフォリオ運用を根づかせたいというのが縦糸だ。  横糸はもっと個人的な経験で、ニューヨークで資産運用をやっていると聞いた米国の義理の両親から、自分の資産がきちんと運用されているか見てほしいと言われた。見てみると、プライベートバンク(PB)を使って手数料だけで年間数百万円払っていた。PBは3~5億円資産がないと使えないはずだ。私の実の両親と義理の両親は、同じような年齢で同じような職歴で同じような学歴で、金融資産の額が10倍違う。なぜこんなに格差があるのか考えてみると、義理の両親はたまたま近所に独立系のフィナンシャルプランナーがいて資産運用を任せていた。あるいは勤務先の福利厚生でお任せで運用をやってくれた。その結果、米国人の平均をはるかに上回るパフォーマンスを達成していた。そういうサービスが日本でもあると良いと思った。私の両親が良心的なお任せのサービスを受けていたら、もっと豊かな生活ができていたはずだ。今の若い世代には制度がいろいろな意味で行き届いておらず、それをサポートしたいというのが横糸だ。  -行政経験の影響は。  財務省時代は主税局側でNISA(少額投資非課税制度)の担当だったし、金融行政の経験もある。ただ、それ以上に大きいのは、社会保障と税の一体改革を担当したことだ。高齢者向けの社会保障制度は充実していて、それを維持するために政治的、行政的なリソース(資源)が投下されていくのに対し、子育て支援には政府として力を入れていても高齢者向けに比べると行き届いていない。消費税が上げられない中で社会保険制度を持続させようとすると、社会保険料を上げなければならず、働いている人たちの負担はますます大きくなる。働く人たちに対する国としてのセーフティーネットが十分に行き届いていないという問題意識は強くあった。真面目に働くと老後の心配がなく豊かになるということが金融サービスとして実現できるのではないかという思いがあった。  -ロボアドバイザー事業の顧客属性は。  顧客の9割が30~50代。日本の金融資産が60代以上に集中していることを考えると、起業のきっかけでもあった働く世代が豊かさを実感できる社会にしたいという思いはうまく実現できている。投資経験者が8~9割。経営者、医者、弁護士、金融関係者など金融リテラシーが割と高い人が多い。まず投資経験があって資産がある程度ある方々に選ばれるサービスを目指しており、その次のステップとして投資未経験者に使いやすいサービスとして広げていく。今はバーをあえて高く設定して、金融リテラシーのある方々に選ばれることを優先しているが、サービスの完成度が上がってきたら今度は投資未経験者に使って頂けるようにサービス設計を変えていくことを考えている。そのために、住信SBIネット銀行の顧客は30万円(通常は100万円)から使えるようになるし、今春から始める「お釣りこつこつ投資」は500円単位で投資できる。  -お釣りこつこつ投資の概要は。  カード利用の切りの良い金額に届かない「お釣り」をこつこつためて500円で自動的に投資する。日常生活の中に投資や資産運用を自然な形で潜り込ませてたい。金額だけでなく、心理的な障壁を下げる工夫が必要だ。預金とカードと資産運用が一体になったサービスをつくることで裾野が一気に拡大する。これは、情報を参照するだけでなく実際にお金まで動かす更新系API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)と少額からのロボアドバイザーが一緒にならないとできないサービスだ。現金決済からカード決済に移行していく中で、うまく波に乗る形でサービスを拡大していきたい。  -自社ブランドと金融機関ブランドの区別は。  創業の理念に照らすとわれわれのブランドへのこだわりはない。郵便局に行っても銀行に行っても証券会社に行っても当たり前のように使えるサービスを実現したいので、合理的な選択肢は自身のブランドにこだわらずに金融機関と提携していくことになる。日本の場合、預金が個人金融資産の半分以上を占めている。利用者の意識の中心が預金だから、預金との連動をいかに実現していくかが日本で受け入れられる上では非常に重要だ。地域金融機関とも連携していきたい。  -データマイニングを活用する考えは。  将来的にはあると思うが、ステップを踏んでいく。まず優先すべきはプライバシー保護であり、データセキュリティーの確保だ。携帯電話を落としたときにデータが流出しないようウェルスナビに口座を開設するときに銀行口座を登録してもらっている。パスワードを盗まれて全額出金されても自分の口座にしか動かない仕組みになっている。銀行口座を登録してもらうというステップを入れているので、結果として口座開設率は下がるが、それでもいいという判断をしている。データマイニングに関しても、きちんと社内外の専門家で線引きの議論を尽くすのが先だ。そもそも論として、自動的に運用される便利さと、手数料やリスクをガラス張りにする透明性の二つが必要だ。そのバランスが取れないと広がらない。  -これまで個人金融資産が投資に回らなかった原因は。  一つはそもそも国際分散投資のツールがなかった。日経平均株価がバブル期の水準を回復していないので、投資をすると資産が増えるという成功体験がそもそも得られない。根本的な原因はデフレとゼロ成長だ。どれほど分散投資をしても銀行預金をアウトパフォームしないので、どの銘柄を売れば良いのか、どの銘柄を買えば良いのかというゼロサムの世界に入る。ギャンブルに近い形になる。2番目は規制の問題だ。金融に限らず規制産業は新規参入が多くない。日本の金融システムを守るため既存金融機関の健全性を確保することが中心だったので、新規参入を促してイノベーション(技術革新)を起こすことが十分にできる環境になかった。  3番目はコスト構造だ。日本の金融機関はコストが高い。なぜ顧客の利益にならない金融商品を売りなさいという指示が本店から来るのかというと、金融機関のコスト構造が高いので手数料が高い商品を売らないと採算がとれないところに銀行が追い込まれている。そこで割り切った人だけが昇進していく仕組みになっている。構造的な問題だ。テクノロジーの力を活用してコスト構造を抜本的に変えることができれば、現場の人たちが提供したいと思っている良心的な設計の商品を売っても採算がとれる世界に持っていける。裏側の仕組みを自動化することを金融機関と一緒にできれば、高コスト構造は改善できる。(2017/03/02-13:11)

この記事の情報発信者

株式会社 時事通信社

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