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フィンテック最前線=銀行とベンチャーの連携で身近に

2017/02/27 株式会社 時事通信社
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ITを活用した金融サービス「フィンテック」が身近になってきた。銀行など伝統的な金融機関は、全く異なる発想と技術力を持つベンチャー企業との連携を進める。電子化により低コストになった地域通貨、少額のお金を自動的に投資や貯金に回せるアプリ、中小企業の経理を効率化する会計ソフトなどがお金の流れを変えようとしている。最前線の動きを紹介する。  ◇地域通貨、進む電子化=経済活性化に一役  地方経済の活性化を目的に発行される地域通貨を電子化する取り組みが進んでいる。金券やICチップ入りのカードを使用せず、スマートフォンで簡単に決済できる手軽さが売りだ。ITを活用した金融サービス「フィンテック」は、安倍政権が目指す地方創生にも一役買っている。  長崎県の離島市町で組織する「しま共通地域通貨発行委員会」は昨年10月、壱岐島や五島列島などで使える「しまとく通貨」を電子化した。5000円払えば6000円分が購入できる観光客向けのプレミアム付き商品券として、2013年度から紙で発行していたものだ。  電子ギフトチケット事業を展開するギフティ(東京)などがシステムを提供。顧客がスマホの専用ページを開き、加盟店に特殊な電子スタンプを押してもらうだけで支払いが完了する。店側の導入費用はスタンプ代の数千円で済み、金券の発行や管理にかかる費用も不要になった。  「経費を25%削減する効果がある」とギフティの太田睦代表取締役。しまとく通貨は、先月末までの4カ月間で1億3000万円以上が利用された。誰がどの店舗でいくら使ったかも把握できるため、今後は情報の分析結果を観光振興に生かす考えだ。  インターネット上の仮想通貨取引を支える「ブロックチェーン」と呼ばれる基盤技術を活用し、低コストで安全な決済サービスの導入を目指す動きもある。島根県を本拠とする山陰合同銀行は昨年11月、ブロックチェーンを使った電子通貨「ごうぎんコイン」の実証実験を行った。スマホの専用アプリでQRコードを表示し、行員食堂のタブレット端末で読み取れば料金が支払える。  同行は、地域経済の活性化につながる実用化の仕組みを検討中だ。システムを開発したOrb(オーブ、東京)の仲津正朗最高経営責任者は「地元企業を巻き込み、地域通貨を育ててもらいたい」と各地の地方銀行に採用を呼び掛けている。  ▽ブロックチェーンとは  複数のコンピューターでインターネット上の価値の移転が正しく記録されているかを相互に監視し、承認し合う仕組み。もともと仮想通貨「ビットコイン」の信頼性を確保する中核技術として実用化された。中央コンピューターで一元的に管理する手法よりコストが安く、不正が入り込む余地が少ないとされる。不動産登記などさまざまな分野への応用が期待されており、1990年代に普及が進んだインターネットに匹敵する技術革新だと指摘する声もある。  ◇「お釣り」を貯金や投資に=預金口座やカードと連携  買い物をするたびに、少額のお金を自動的に貯金や投資に回せるサービスが現れ始めた。銀行口座やクレジットカードなどの利用情報と連携し、こつこつと積み立てる「お釣り貯金」をデジタルで実現した。ITを活用した金融サービスが一段と身近になりつつある。  昨年末に貯金管理アプリ「finbee(フィンビー)」の提供を始めたネストエッグ(東京)のサービスは、顧客の銀行口座のお金を貯金用口座に自動的に移動させる。貯金の方法は4通りから選択できる。  例えば、銀行口座から即座に代金が引き落とされる「デビットカード」を利用すると、事前に決めた切りの良い金額に届かない端数を「お釣り」として貯金できる。1000円単位で支払い設定した場合、代金が1980円なら2000円が銀行口座から引き落とされ、お釣りの20円が貯金用口座に移る。  健康管理アプリと連動させ、スマートフォンで計測した一日の歩数が目標に到達したかどうかに応じ、設定した金額を貯金用口座に移すこともできる。ネストエッグの田村栄仁社長は「ためたお金で商品やサービスを購入するまでアプリでできるようにしたい」と機能強化に意欲を見せる。  コンピューターが自動的に最適な資産構成を提案する「ロボアドバイザー」サービスを手掛けるウェルスナビ(東京)は、今春にもクレジットカード利用による買い物代金の端数を投資に回すサービスを始める。買い物でたまったお釣りは、500円を単位に世界50カ国の1万1000銘柄の資産で自動的に運用される。  柴山和久最高経営責任者は「日常生活の中に資産運用を自然な形で潜り込ませたい」と強調。政府も長期の積み立て型分散投資を国民に促しているが、投資の裾野を若年層にも広げるには、心理的ハードルをいかに下げるかが鍵となりそうだ。  ◇中小企業に「生産性革命」=会計帳簿を自動化  金融とITを融合した「フィンテック」を活用する余地が大きいのが、中小企業の事務部門だ。人工知能(AI)を使った会計ソフトは、煩雑な中小企業の経理作業を効率化するだけでなく、銀行の融資慣行にも変革を迫る。中小企業の収益力を劇的に向上させる「生産性革命」の波が、すぐそこまで押し寄せている。  東京都内のベンチャー企業freee(フリー)が提供するクラウド会計ソフトは、中小企業が持つ銀行口座の出入金記録やクレジットカードの利用情報などを自動的に仕分けし、インターネット上で帳簿を作成する。請求書の発行や資金繰りの分析もネット上で完結。全国60万以上の事業所で利用されており、人手不足に悩む中小企業の事務負担を大幅に軽減している。  ただ、中小企業の多くはITを積極活用しようとの意識が依然として薄い。中小企業庁の調査では、財務・会計領域でクラウドサービスを利用している中小企業は9%にとどまり、会計ソフトなどを使っていない企業の7割近くは今後も利用する考えがないと回答した。  クラウド活用による経理の自動化は、中小企業の資金繰りの改善にもつながる可能性がある。フリーは地方銀行最大手の横浜銀行やネット専業のジャパンネット銀行と提携し、無担保融資の審査用に顧客企業の会計データを提供し始めた。  通常の融資では「過去の数字」を示す決算書が重視されるが、フリーのサービスでは金融機関が企業の実態により近いリアルタイムの支払い情報などを参照できる。金融庁は、地銀に担保・保証に依存した融資からの脱却を求めており、企業の成長性の判断材料となる取引データは金融機関にとって「宝の山」だ。  フリーの佐々木大輔最高経営責任者は、将来性のある小規模事業者への融資を進めるには、「金融機関がテクノロジーと向き合うしかない」とITのさらなる活用を訴えている。(2017/02/27-07:41)

〔写真説明〕長崎県で発行されている地域通貨「しまとく通貨」の決済に使われるスタンプとスマートフォンアプリの画面(ギフティ提供)

 

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